菅了法（号：桐南）の名(＊1)を知る人は，今ではほとんどいらっしゃらないでしょう。でも，グリム童話を初めて日本語に訳した（と言われている(*2)）人だ，と申し上げれば，「へえ～」とおっしゃるのでは？
ふとしたきっかけ(*3)で菅了法について調べ始めたのですが，山陰地方の浄土真宗本願寺派の寺に生まれ，慶應義塾で諭吉に師事し，オクスフォード留学後グリム童話の翻訳などを出版し，その後，ジャーナリスト（自由民権運動に関わり，筆禍で投獄もされています），国会議員（第１回衆議院議員選挙に当選）を経て，後半生は僧侶として活躍した彼をめぐる出来事は，まさに近代日本の縮図といっても過言ではないような気がしてきています。皆様も了法ワールドを探検してみませんか？
* 1 「菅」は今では「すが」と表記されていますが，了法自身は「すげ」とよませていたのだそうです（野口芳子『グリムのメルヒェン その夢と現実』勁草書房，1994年，p.181，第8章注12）。確かに，後述の『西洋古事 神仙叢話』の表紙には"TRANSLATED BY SUGE"と表記されています。了法の妻りうの書簡を研究しておられる横澤清子氏からのご教示によれば，菅了法が打った電報の差し出し人名も「スゲリョウホウ」となっているそうです。さらに，了法の孫に当たる菅俊二氏からも，了法自身はスゲと読ませていたとの情報をいただいています。
また，「菅」の文字も，『西洋古事 神仙叢話』の奥付には，「島根県平民 管了法」と，「管」になっています。『倫理学要論』の中扉にも，「管 了法著」とあります。後に取り上げますが，了法が結婚する際，相手の父親が残した了法に関する覚え書きにも，「管 了法」とあります（横澤清子「明治の女学生－－吉野りうの書簡から－－」，三鷹市教育委員会『三鷹吉野泰平家文書考察集 多摩の民権と吉野泰三』，平成11年3月，138ページ）。しかし，戸籍上は「菅」の字が使われています（野口前掲書，p.181，第8章注12。第6刷以降，この部分の記述が補訂されていますが，当初第2刷を見ていたため気付かず，菅俊二氏のご指摘で知りました）ので，「管」は誤用と考えられます。
* 2 最近，菅了法の翻訳の１年前に出た『ROMAJI ZASSHI』11号にグリムの「羊飼いのわらべ」が掲載されていることが分かったようですが（川戸道昭「グリム，アンデルセン童話の発見（上）」『日本古書通信』848号，2000年3月，p.4），本格的な翻訳という点では菅了法が最初といっていいのではないでしょうか。
* 3 数年前，古本屋で見つけた南條文雄の『懐旧録』の中に，偶然，菅了法の名を見つけ，誰だろうこの人？と思ったのが，すべての始まりでした。
